味方玄・團の「二人静」

春三月、若菜を摘みに出た女に源義経の恋人・静御前の霊が依り憑くところから舞台は一気に佳境に入ってくる。ところは吉野・勝手神社、とされている。
この日「二人静」が演じられたのは鎌倉期に創建された岐阜・郡上大和の明建(みょうけん)神社の拝殿、あたりはうっそうとした杉木立。折から台風の訪れも心配されたその日は、ざわざわと風が木々を揺らしている。

この日は味方玄(しずか)が静御前の霊を演じ、その弟・團(まどか)が静御前に憑かれた菜摘女を演じる。「二人静」は本物と依代が同じ舞を寄り添って舞う「相舞」が見どころの、静御前の慕情が切々とせまる美しい能なのである。
実はよそながらの心配とひそかな期待があった。玄と團は兄弟ながら身長差が20センチ近くある。舞に関してはいずれも劣らぬ技の切れを見せる兄弟であるから、どのような工夫をするか、美しい相舞を見せてくれるだろうとは思っていた。

問答があって、やがて物着。舞台上でツレ(菜摘女)が静御前の形見の舞衣(長絹)と烏帽子を後見に着付けてもらう。舞い始めるツレにするすると音も無くシテ(静御前の霊)が寄り添ってくる。装束は同じ紫の長絹。袖が縫い止めてないので腕の動きに添ってなびくさまが美しい。
気がつくとまるで影が寄り添うように、ツレの團がシテの玄に従って舞っている。
身長差はまったく気にならなかった。
玄の面は「増女」がかって臈たけた「小面」、團はふっくらとしたあどけなさの勝った「小面」であるのがゆかしい。

 

ふと、静御前の霊は正気に返った菜摘女から離れて吉野の奥へと悄然と去っていく。遅れて、菜摘女も茫洋と橋掛かりを去っていく。
ほんの少しずらして舞う「序の舞」はゆるやかで上品な形の連続で、まるで夢心地に見所を連れ去ってゆく。

静御前の慕情がどうかということよりも、舞の美しさとはんなりとした花の余情に酔っているだけでかまわない、そんなお能であったのだろう。

「二人静」 あらすじ

吉野・勝手神社の神官は「女たちに春の菜を摘んでくるように伝えよ」と従者に命ずる。
女が菜を摘んでいると、里の女が現れて「どうか経を書写して私を弔ってほしい」と願い、「疑う者があればおまえに憑いて名乗るから」と言って消える。
菜摘女は驚いて神官に報告するが、そのうちに様子が変わって静御前が依り憑いて言うには、「勝手神社の神に奉納した私の装束を返してくれれば舞ってみせる」と。
神官は装束を取り出して菜摘女に着せ、舞を舞わせる。やがて静御前の霊も姿を現してともに序の舞を舞い、義経の都落ちを語り、後世を弔ってくれるよう頼んで消えてゆくのであった。

 

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