春三月、若菜を摘みに出た女に源義経の恋人・静御前の霊が依り憑くところから舞台は一気に佳境に入ってくる。ところは吉野・勝手神社、とされている。 この日は味方玄(しずか)が静御前の霊を演じ、その弟・團(まどか)が静御前に憑かれた菜摘女を演じる。「二人静」は本物と依代が同じ舞を寄り添って舞う「相舞」が見どころの、静御前の慕情が切々とせまる美しい能なのである。 問答があって、やがて物着。舞台上でツレ(菜摘女)が静御前の形見の舞衣(長絹)と烏帽子を後見に着付けてもらう。舞い始めるツレにするすると音も無くシテ(静御前の霊)が寄り添ってくる。装束は同じ紫の長絹。袖が縫い止めてないので腕の動きに添ってなびくさまが美しい。 |
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ふと、静御前の霊は正気に返った菜摘女から離れて吉野の奥へと悄然と去っていく。遅れて、菜摘女も茫洋と橋掛かりを去っていく。 ほんの少しずらして舞う「序の舞」はゆるやかで上品な形の連続で、まるで夢心地に見所を連れ去ってゆく。 静御前の慕情がどうかということよりも、舞の美しさとはんなりとした花の余情に酔っているだけでかまわない、そんなお能であったのだろう。 |
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「二人静」 あらすじ 吉野・勝手神社の神官は「女たちに春の菜を摘んでくるように伝えよ」と従者に命ずる。 |
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背景画像・バナー: 篆刻素材 葵