花菖蒲は、山野に自生する「野花菖蒲」から改良されてできた、日本特産の植物です。江戸後期、この花菖蒲の栽培・改良に大きな功績を残したのが松平左金吾定朝という麻布二千石の旗本です。ちなみに彼の父左金吾定寅は火盗改の加役として、あの鬼平と共に江戸の治安維持にあたったということでも知られています(逢坂剛「重蔵始末」はこの左金吾定寅の配下の与力近藤重蔵を主人公にしたもの)。左金吾定朝も京都町奉行などを勤めるかたわら花菖蒲の研究に励み、晩年は「菖翁」と号して花菖蒲栽培についての著作をのこしました。葛飾の堀切菖蒲園は、17世紀半ばに堀切村の小高伊左衛門という人が始めたと言われていますが、松平左金吾の開発した花菖蒲の株も多数譲り受けられたそうです。
ところでこの花菖蒲はアヤメ科の多年草ですが、端午の節句の「菖蒲湯」の菖蒲はサトイモ科で、葉の見かけが似ているだけの全く別の植物です。
花菖蒲の名所は、東京では先の堀切菖蒲園のほか、明治神宮・水元公園・小石川後楽園など、関西は平安神宮(京都)・大鳥大社(大阪)・柳生花菖蒲園(奈良)、信州は大洞花菖蒲園(長野)などなど全国に多数あります。