大阪・京都 旅日記

― 平成16年 1月 ―









予定外の取引先との昼食をダッシュでこなして、名古屋駅へ。
ところが今日の打ち合わせで渡す予定だった書類をまだ持参していることに気づいて、ファックスで名古屋駅から急遽送信するというアクシデント。
うろたえつつも新幹線を奢って、予定より1時間遅れで到着。(べつに一人旅だし、決めてもいないんだけど予定通りの行動ができないと気持ち悪い)
15時…すぐに地下鉄に乗り換えて大阪港(天保山)へ。
隣り合う「海遊館」には目もくれず、ひたすらサントリーミュージァムへ。
田中一光は日本グラフィック界の巨人。単純明快でいて哲学がある、そのスタイリッシュさ・理性的な抑揚に惹かれている。仕事自体も「無印良品」「セゾングループ・ロゴ」「LOFT・ロゴ」「なら・シルクロード博・マーク」…日本の伝統を踏まえたポスターも数多く作っているし、会社ロゴマーク、本の装丁、書体デザインなど本当にたくさんの仕事を残している。それを建築家・安藤忠雄プロデュースで展示するという、恐ろしくも嬉しい企画だったので飛びついたわけ。
安藤忠雄はコンクリート打ちっぱなしの壁面の住宅などで有名な人。関西出身。阪神大震災の時はまだ燃えている街を箸袋や紙ナプキンにスケッチした人。
以前、そういう展覧会を同じ「サントリーミュージァム」で見ている。
今回はペットボトルをアクリルのアタッチメントとワイヤーでつないで作った壁にかけられたたくさんの田中一光のポスター…。ペットボトルの透明感のある無機的な展示壁とのコラボレーションは美しかった。また日本の消費社会へのアンチテーゼ・問題提起でもある…。建築家である彼がなぜ展覧会のプロデュースを?友人だから、だけではないはずだ。ちょっとゆっくり考えたい。と思ったので「casa」の特別編集本・安藤忠雄特集(サイン入り。誰のサインって…安藤忠雄の。\980)を買う。
寒さのあまり根性なしになりそうだったが、なんとか天保山沖を望んでみる。
(幕末、慶応4年のちょうど今頃の季節、幕府軍はここから富士山丸ほかにのりこんで江戸へ帰ったのだった) それにしても寒い…。ほうほうのていで地下鉄駅に逃げ帰る。









大阪は京橋から京阪電車に乗り換えて、京都は鴨川べりに乗り入れ、宿に直行。
ところが、三条大橋を渡りきり「わーい、京都のスタバだ、あとで来よう」などと浮かれていたら…
三条小橋たもとに「大村益次郎・佐久間象山遭難の碑」!! あ〜れ〜♪
愛しい中村梅之助・益次郎様っ!! (←古い…)記憶に新しい石坂浩二・象山さまっ!!

「と、なると...」前日地図で確認したところ近くに「池田屋跡」碑もあるはず…。
どうしよう、自分がどんなリアクションとるか、責任もてない…。長い間憧れだった「池田屋」…。沖田が喀血・昏倒したという、新選組の名を一躍有名にしたという「池田屋」…。憧れるあまりずっとずっと怖がって近づかなかった「池田屋」…えーっえーっ…こっ…心の準備というものが…。
とか内心じたばたしつつ何食わぬ顔で歩いていたら…三条小橋から1分もかからず、なんともあっけなく、ついに20年越しの「池田屋跡」に到着してしまった。
…思わず20年かかってここまでやってきた自分に対して涙してしまった。ふっ…不覚。

とりあえず宿に落ち着いて、すぐ四条河原町のデパートで今夜の夕食と明朝の朝食を調達。
いつも一人で旅に出るとちょっと贅沢なお弁当とデリカ、インスタントのスープなどで、ホテルの部屋で朝夕食を済ませる習慣なので…(時間節約&気を使いたくない)。
今回は河原町筋の「ひさご寿司」の箱寿司がデパ地下に出店してたので、それと、「進々堂」のパン、など。そうそう、壬生・八木邸の「鶴屋」さんが臨時出店、たまこ様も食した「屯所餅」ほかお菓子のみならず新選組グッズなど販売。(四条河原町・高島屋B1)
「軽いものを」と「誠せんべい」を買う。明日は壬生へ行く時間はないので…。

宿へ帰る途中、迷った末「写るンです」購入。明朝やはり「池田屋跡」「大村益次郎遭難の碑」を撮影することにする。今回カメラを忘れるという大失態(仕事のせいだーっ)なので、不本意ながら「写るンです」。愛用のペンタックスちゃんが恋しい。
ホテルの部屋でミニバーのビール飲みつつ夕食。酔っ払い、「ナウシカ」見つつ寝てしまう。
風呂は明朝。「はんなり菊太郎」見るの忘れた…私にとっては「ナウシカ」の方が大事。たとえDVD持っていても。だってすごく影響受けたんだもん。

翌日。風呂に入りながら考えた末に、まずは観世会館近くの地下鉄駅のロッカーに荷物を預けてまた三条に舞い戻ってゆっくり探索することにする。
スターバックスで鴨川と三条大橋を眺めつつ朝のコーヒー。…スタバはどこで入ってもほっとする。旅先で見つけるとだいたい入る。東京・銀座松屋ウラの日本上陸第1号店も、御茶ノ水の日本第2号店、名古屋の第1号店もクリア。…あんまり自慢じゃないけど。濃厚なのにあとくちが残らない。だから好きだ。でもここの豆で自分で淹れてもこんな味しない…。お馴染みのラテ、ショートのホットで。カスタマイズはしない主義。
スタバで今日の謡本見たり、地図眺めたり、うじうじと最後まで躊躇したが、決心して例の物件の撮影を決行する。朝で人は少なかったがやっぱり恥ずかしい。
得意の早撮りで2カットずつゲット。現像上手くいくといいけど。









そのまま三条通りを東へ。11時開演だからちょっと急ぐ。観世会館での昼食に、どこかで京都らしいお弁当を、と思ったが見つからず結局ローソンでおにぎり。いつもなら新幹線コンコースの「ゐざさの柿の葉寿司」買うけど…(奈良の名物ですが…)会館にはちょっとした喫茶室があるが狭いし、お弁当のほうが観劇の気分が出る。10分程度の休憩に急いで食べるにはお寿司かおにぎりが一番いい。お茶もサービスで「ご自由に」と出してある。人によっては仕舞や狂言の間に外へ食べに出る人もいるが(「手をけ弁当」で有名な「六盛」も近いし)…そんなもったいないことできない、全部観る…絶対。
先週せっかくの「蝉丸」観ながら眠ったので眠気覚ましのミントガムも調達。
本当は先生に失礼だからガムなんぞ噛みながら観るものではないと、自主規制していたのだが、眠るほうがもっと失礼だと規制解除。結局今日もやっぱりガムのお世話になってしまった。…がっくり。でも大丈夫、勘所は逃してないぞー(でも間狂言は寝てました…ごめんね、狂言師さん)
今回の会は若手能楽師の育成が目的、普段シテを演じる機会が少ない若手に勉強させる意味で、中堅以上の先輩たちががっちりサポート、清々しくのびやかな演技が気持ちいい。
掘り出し物がときどきあるので若手能は楽しい。こういう若いうちの芸を見ておいて、年とともにどう成長していくか、それを見守るのもファンの役目、能を見始めたころそう教えられた。ご贔屓を見つける楽しみと成長を見守る楽しみ…どっちも好きだ。
ウチの師匠は今回力が入りすぎて謡も上ずっている。「先生どうしたの〜?」
装束はいつもどおり奇抜で華々しくあでやか。美的センスはピカ一なんだよなー。
斬新過ぎず節度を持って「奇抜」。いつもながらいい感じ。
16:40頃終了、ロビーでばったり会った京都在住の相弟子と同様の意見交換。
ロビーにいらした師匠のお母様にも遅ればせながら新年のご挨拶。
お母様「まぁ、今日はキレそうになって謡ってたわねー、おほほほほ」…さすが母君!!
師匠がお腹にいる間もご自身、舞を舞っていた、という筋金入りのお能大好き・母君であり、能楽界初の文学博士能楽師・味方健の奥様である。おっとりなさっているようで実にスルドイ。
会場で会った名古屋在住の相弟子やネット上でお知り合いになった能楽ファンの方々と離れて別行動。とにかくお能のときや展覧会に行くときはひとりになりたい。
急いで京都駅・伊勢丹「えき」美術館へ。
ゆいさまに教えていただいた「金剛宗家 能の世界展」に入る。
途中「西利」で腹ごしらえ。漬物てんぷらと冷たいミニおうどんのセット。美味しかった!!
展示の中身は…すごい。京都の、金剛家の、底力を目の当たりにする。
やっぱり本物はスバラシイ。美しい。お能とはこういうものなのだ、と実感する。
そういえば、昨日の田中一光もこの展覧会も専門の図録がない。ちょっと寂しい。もちろん別途編集された本はある(「田中一光の仕事」\10000、「風姿〜金剛流入門」\980)。でもコンパクトにまとめられた図録ほど資料・記録としての価値はあると思うのだが…。結局どちらも買わなかった。代わりといってはなんだが、西陣織の端裂を買う。足袋袋を母に縫わせよう…45センチ四方で\1600。縫い賃は食事一回ぐらいでいいかな。西陣の足袋袋なら買うと\5000は堅い…だろうか?? 得したか損したかよくわからないけど。
遅くなったので在来線で帰る予定を、思い切って新幹線にする。結局往復新幹線になってしまった。金券ショップでやっぱりチケット買っとくべきだった。正価でJRチケットなどばかばかしい。それにしても早い。35分ほどで名古屋到着。のんびりと在来線の旅も好きだがこのスピードは魅力的。古いものと新しいもの、どっちにも惹かれる私がいる。
 

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